種々ある物理量の測定技術は究極の精度を求めて常に発展しています。それに伴い単位のより良い定義の追求は、世界中の各国家が存亡をかけ、国家戦略として取り組む重要課題です。2019年に国際単位であるSI単位の定義が大幅に改定されました。私たちはその内容を産業技術総合研究所の計量標準総合センターのホームページなどで確認することができます。本書は、このような国際単位の定義の改定が、どのような理念に基づいてこれまで行われてきたかという歴史や現状を比較的平易に解説しています。赤道の長さが約40000kmとなっている経緯などメートル法の始まりや、現在の定義に至った改定方針などが本書から分かります。信じられないことに、この改定まで質量の単位はフランスのパリに置かれていたキログラム原器と呼ばれる物体によって定義されていました。従って、質量に関わる測定技術の向上で精度が上がると、その測定装置に基準となる目盛りを刻むために、厳密にはパリに行かなければなりませんでした。実際には各国にあるキログラム原器のレプリカで代用されたようですが、この長年使われてきた定義は明らかに測定器の精度および利便性の実態に合わなくなっていました。そこで、測定精度をできるだけよくするとともに、世界のどこでも測定装置を作成できるという要求に基づき、この改定が行われました。その結果、今まで測定対象であった、プランク定数、電荷素量、ボルツマン定数、アヴォガドロ定数は精度無限大の確定値として定義される抜本的な改定となりました。
比較的気軽に読める本書に加えて、2019年7月に松田健一先生が単位に関するおすすめ本として、もう少し専門的な電磁気学に踏み込んで書かれた、佐藤文隆と北野正雄による著作「新SI単位と電磁気学」を紹介されているので、理系の学生はこれも参考にして欲しいと思います。
図書館ではこの図書を所蔵
(駿:609 ||Y62 船:609 ||Ta )
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