1. 「物理学とは何だろうか」上、 朝永振一郎著(岩波書店、1979)
2. 「物理の道しるべ」-研究者の道とはなにかー 数理科学編集部編(サイエンス社、2011)
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わが国は経済的には十分な力が無かったときから、物理学では理論物理学の分野で多くの人材を出してきた。最近は経済力もついて本来の実験科学としての物理学の実験でも多くの世界的な業績が上がっていることは、学生さんも新聞等でご存知と思います。
ここで取り上げた最初の本は、文字通り日本の理論物理学が始めて世界的なレベルに到達したときに活躍した一人でありノーベル物理学賞を受賞された朝永博士が一般向けに岩波の文庫本として書いた本である。上下あるうちの上巻である。もっとも内容的にはかなり高く、そうやさしい本というわけではないが、本書の後半に書いてある熱力学の歴史的な発展の考察はよく書けていると思う。朝永博士は落語を愛好されたことはよく知られているが、本書も独特の語り口で物理の発展の一部をひとつのストリーとしてまとめている。本当の歴史はこれとは違っても、このような形で読むのも面白いと思う。
第二に上げた本は、現在理論物理学で実際に研究を続けている世代の研究者20名が学生時代からどのような動機で理論物理に志し、どのように研究者を目指して歩んだかなどをかなり自由に書いたエッセイ的な文章を集めたものである。学生さんの中でも将来理論物理学あるいはそれに近い分野に興味がある人には参考になるのではないかと思われる。なお、この本に関しては少し「ルール違反」があり筆者も20人の著者の一人である。しかし、これも一興と思いあえてここに取り上げた。
(量子科学研究所 藤川和男)