図書館だより

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第32回日本大学理工学部図書館公開講座「全天X線観測で探し出すブラックホールと重力波源」が終了しました

 平成29年12月13日(水)18時より1号館6階CSTホールにおいて、第32回日本大学理工学部図書館公開講座が開催された。今回は物理学科教授の根來均先生による「全天X線観測で探し出すブラックホールと重力波源」を演題に、182名の聴衆に向けて質疑応答を含めた2時間にわたる熱心な講演がなされた。

○根來先生講演概要
 ちょうど「重力波」の直接的な観測という業績によってノーベル物理学賞が3名の先生(R. Weiss, B. Barish, K. Thorne)に贈られたばかりであるが、そのことも交えてお話をしたい。できるだけ平易にお話しするので気楽に聞いていただきたい。
 まず、ブラックホールとは何か。1915年にアインシュタインによって一般相対性理論が発表されたが、翌年、シュバルツシルトによって相対性理論の重力場の方程式に対するひとつの解がもたらされた。時間と長さ(空間)の関係を表すものであったが、この式で数学的に発散してしまう半径があり、それがブラックホールの半径と考えられた。続くオッペンハイマーらの研究によると、太陽程度の質量の星が燃え尽きると地球ほどの大きさの白色矮星になり、太陽の8~25倍の質量の星が超新星爆発すると山手線程度の大きさの高密度な中性子星が生まれる(太陽の質量の1.4倍)。太陽の25倍以上の質量の星が超新星爆発すると永遠に収縮し続ける天体となり、これがブラックホールとなる(太陽の質量の5~10倍)。
 われわれの天の川銀河にはブラックホールがいくつあるのか。ブラックホールはそもそも見えないのでとらえることは難しいが、白鳥座の首あたりにX線で輝く星が発見された。その放射エネルギーは太陽の1万倍から10万倍であり、その近くの太陽の質量の20から30倍の可視で見える星を観測すると、大きな質量の見えない星に振り回されていることがわかった。このことから、可視の星と連星をなすX線星(白鳥座X-1)は中性子星の質量の上限値を超えたブラックホールと考えられ、可視の星から落ちてくるガスがブラックホールに吸い込まれるとき高温となってX線を放出し、そのガスが光っていることが観測されたことがわかってきた。これがブラックホールと考えられる天体の発見になった。天の川銀河には可視光線で見ると1000億から4000億個の星があるが、ブラックホールは約1億個あることが期待される。
 これまで見つかったブラックホールらしい天体(ブラックホール候補天体, BHC)には、伴星からのガスが流れ込み始めると突然輝きだし、ガスを吸い終わると暗くなるX線新星と呼ばれるものも多く見つかっている。また、X線強度の不可思議な短時間変動を示すのもブラックホール候補天体の特徴である。このように、ブラックホール候補天体には中性子星の質量の上限値である太陽の質量の3倍を超えるものと、(質量は不明でも)それらとよく似た特徴を示すものが含まれ、現在50から60の候補がある。しかし、常に輝いているものは数個で、一時的に輝くもの(X線新星)が9割以上となっている。そのようなブラックホールをとらえるための観測装置が国際宇宙ステーションに搭載されたMAXI(マキシ)である。
 MAXIは、2009年7月に国際宇宙ステーション「きぼう」に搭載され、地上では約50名のMAXIチームが365日24時間(12時間交代制)で観測を続けている。MAXIは日本大学も開発に関わった理化学研究所等で開発された「ガス比例計数管」と大阪大学とJAXAで開発されたX線CCDを用いた装置からなり、地球を92分間で一周する間に全天の観測ができる仕組みとなっている。MAXIが観測したデータは最速10秒で世界に速報が流せるシステムとなっており、その「突発天体発見システム」の開発は根來研究室が行った。2009年8月から観測をはじめたがなかなか新天体の発見には至らなかったものの、2011年9月25日新天体が出現し、ブラックホール候補天体MAXI J1659-159として発見が報じられた。ブラックホール候補天体の発見数は2010年1、2011年2、2012年2、2013年1と実績を重ねたが、2013年以降、中性子連星は見つかるものの、ブラックホールは見つからなくなった。しかし、2017年9月2日ブラックホール候補天体を発見、10月19日と11月17日にも新たなX線新星を発見した。約8年間で22個の新天体を発見している実績は他国の衛星に比べても最も多い。また、MAXIの発見する新天体は暗いという特徴があった。これははるか遠くのブラックホールを発見しているのであって、天の川銀河全体の広範囲の観測の結果が実績に結び付いたものである。
 ブラックホールの最近の研究では、エネルギースペクトルに見られる鉄輝線の広がりをどのように解釈するかなどがある。ブラックホールの周りを回るガスの運動による光のドップラー効果や、特殊および一般相対論効果(重力赤方偏移)によって説明する試みがなされている。
 また、2011年にはMAXI は恒星が(遠方の銀河の中心にある)超巨大ブラックホールに吸い込まれる瞬間に放たれたⅩ線を米のスウィフト衛星とともに(人類史上)初めてリアルタイムで捉えた。
 重力波は重力(空間の歪み)の変化が波として伝わる現象をいうが、これもアインシュタインの一般相対性理論で予測されていた。中性子星2個が引き合って互いの周りをまわると重力波が生じ、徐々にエネルギーが失われ距離が近づき最後は合体してしまう。中性子星2個から成る連星の観測された連星周期の変化が、計算で求められた重力波によるエネルギー損失により見事に説明され、重力波の存在が間接的に示された。その業績により、1993年にノーベル物理学賞が2名の先生(R. Hulseと J. Taylor)に贈られた。重力波を直接観測するため、アメリカの重力波望遠鏡が約3000km離れた地点に2台設置され、2015年9月14日ブラックホールとブラックホールの合体を示すデータが観測された。太陽の質量の36倍と29倍のブラックホールが合体し62倍のブラックホールが生まれた(太陽の質量の3倍のエネルギーが同時に放出された)。この発見が重力波の直接的な証拠となり本年のノーベル物理学賞の受賞となっている。広い視野をもつMAXIは、いち早く重力波源の対応天体を探査したが何も見つからなかった。しかしこれは、ブラックホール同士の合体の場合に期待される結果であった。その後、2017年8月17日に中性子星同士の合体による重力波が初めて観測され、その直後に大爆発を起こした様子がフェルミ衛星(ガンマ線)でも観測された。MAXIは運悪く、観測装置に電源が入る直前での出来事であったため、爆発を捉えることはできなかったが、来年秋に再開される重力波観測との同時観測に期待がかかっている。

 講演後4名から質問が寄せられ、根來先生は丁寧に答えられた。質問は尽きない様子であったが20時をもって終了し、根來先生には盛大な拍手がおくられた。


〇沢山の方々に聴講いただきました。


〇講演後の質問にお答えになっている根來先生です。


〇「きぼう」搭載「MAXI」(全天X線監視装置)の模型
 (提供:JAXA)、公開講座関連図書の展示です。


〇沢山の方々が、根來先生の研究の功績、MAXI、MAXIが捉えた
 極超新星の痕跡(提供:JAXA)等を熱心に見ていました。

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