幼少時,車を高速で走らせる車輪は,どんな動物にもできない,とんでもない人類のアイデアだと考えていたが,実は,目に見えない微小なバクテリアは鞭毛を車輪のように動かして動力を得ていた.これに気付いて以来,ナノの世界にある種の憧れを抱いていたのかもしれない.私がナノ化学研究に出会ったのは博士課程の学生時である.シンプルな球形のナノ粒子を合成し,電子顕微鏡を使ってそれを観察したのである.おおよそ目で見ることができない,ウィルスサイズにも満たないこの小さな粒子が,世界を変えるほどの機能を持つのだ,と思うと心が震えたのを今でも覚えている.「ナノテクノロジー」の概念を提唱したのは,元東京理科大学の谷口紀男先生であり,クリントン大統領が国家的戦略研究目標として宣言して以来,爆発的な勢いで研究が始まった.今ではナノテクノロジーは,情報・エネルギー・医療など多岐に渡る分野において,人類社会の将来を担う技術になりつつある.目で見ることの出来ないナノの世界では一体何が起きていて,また何を起こすことが出来るのか?好奇心旺盛な科学者は,それを追求せずにはいられない.そして,その好奇心の先には産業社会に革新を起こす大発見があることを期待せずにはいられない.
本書は,自然や人類の技術が作り出すナノの世界の造形美を,その驚くべき機能と共に紹介してくれる.仕事の合間に本書を読み,改めてナノの世界の魅力と底知れない可能性に畏怖と感謝の念を抱いてしまうのである.ナノ研究を余り知らない学生諸君であってもこれを読むと,必ずナノの世界が持つ可能性と夢に希望を持つだろう.我々にとっての宇宙は,数ナノメートルサイズの微小物質なのである.
図書館ではこの単行書を所蔵
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