おすすめの本

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☆おすすめの本☆ 孤独の価値 森博嗣著 / 推薦者:宇於﨑勝也(建築学科・不動産科学専攻)

著者の森博嗣氏は、言わずと知れたミステリー作家であるが、数年前まで某大学工学部建築学科の材料系の先生であった。在職中の1996年4月に『すべてがFになる』で作家デビューされたが、忙しい大学の教育・研究の合間によく、執筆活動が可能なものだと感心していた。その氏が本書の中では、大学退職後に田舎に転居し(誰も住所を知らないらしい)、電車には2年半も乗っていないとのこと。外部との連絡はインターネットを使い不自由は全くなさそうである。

ここ数年、「絆」というキーワードがよく聞かれるし、私自身も地域コミュニティの研究をしている。人同士が繋がり助け合うことが良いことという前提で語られるのであるが、それに対して筆者は「孤独」の価値や重要性を本書の中で再認識させてくれる。私も分かっていたはずであるが、改めて文字で読むことで、われわれに必要なのはあえて一人になることなのだと周りに伝えたくなる。

本書の中からいくつか気になる部分を抜き出してみれば、「他人のことを『なんか、あの人寂しいよね』と評することが間違っている。勝手な思い込みで、一人でいることは寂しいこと、寂しいことは悪いこと、という処理を考えもしないでしているだけなのだ。同じ価値観で返せば、そういう『考えなし』こそが、人間として最も寂しいのではないか(P.78)」「孤独であることは、このような協調社会を拒絶することではない。つまり、他者との共存を否定する意図で、孤独になるのではない。たとえ孤独であっても、他者のために、社会のために役立つことができる(P.91)」「もし、本当に親しい友達、本当に自分を認めてくれる人がいるなら、そんなに頻繁に確かめる必要があるだろうか?ずっとつながっていなければならないと不安になるだろうか?『絆』などという不自由なものが必要だろうか。相手が自分を必要としていることに自信がない。その不安、孤独を怖れる不安定さが、都会人の挙動に現れている(P.146)」「独居老人などが人知れず亡くなっていることを、『孤独死』といったりするが、これもやはり、家族愛や友情を宣伝するマスコミの命名であって、なにが孤独なものか、全く理解ができない(P.161)」(筆者は他の箇所で死ぬときはしょせん一人きりと述べている)「仕事を減らしたおかげで、人に会わなくても良くなり、僕は孤独になれた。そして、まず感じたことは、今までのストレスの大きさだ。ストレスというのは、なくなるとよくわかる(P.179)」とある。この引用文の中には気になるキーワードがあるのではないだろうか、「そんなことはない」と思ったあなたは是非一読を勧める。本書は理路整然と、事例をあげながら説明され、納得できる。

最後に、私が読後強く感じたこと、そうわれわれが孤独にならねばならない時、それは研究のアイディアを考え、論文を執筆する時なのである。良い論文をまとめていくために「孤独」を求めようではないか。

図書館ではこの単行書を所蔵

(駿:914.6||Mo 45、船:914.6||Ko)

※表紙画像は紀伊國屋書店BookWebから提供されています。

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