おすすめの本

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☆おすすめの本☆ 街道をゆく 司馬遼太郎著 / 推薦者:高村義晴(まちづくり工学科)

 咲き乱れるころのハナミズキは、たしかに美しい。けれど「桜とハナミズキ、どちらが美しいと思うか」と訊かれれば、ほとんどの日本人は「桜」と答えよう。日本人であれば、目で桜を見るだけではない。自分が小さかった頃、母親に連れて行ってもらった入学式の光景が心に浮かぶ。自分の子どもの卒園式の想い出が甦る。潔く散っていった先人たちを想う。そのようなことを心でしみじみと想い感じるからこそ、美しいのだ。それゆえ目で見た桜をより正確、詳細に伝えることは難しい。鋭い観察が必要なことは言うまでもない。なにごとかを感覚を研ぎ澄ませて感じなければならない。目に見えないことのなかに大事なことがある。もはや月並みの表現では伝わらない。表現をつくり出さなければ叶わないのだ。

 司馬遼太郎の『街道をゆく』は、見事なまでにその土地、土地に受け継がれているもの、美意識、土地の記憶、喜怒哀楽を引き出してみせる。語ってみせる。以前、ご高名な先生から、景観を学ぼうとする学生たちに、このシリーズを薦めているとのお話をお聞きしたことがあった。このことは、実はまちづくりや地域づくりを学ぶ学生にも通じる。まちづくりなどは、無機質な舞台をつくるのではない。そこに土地に対する想いがなければ、慈愛がなければ共感は呼ばない。ぜひまちや都市、地域に関わろうとする学生に一読をお薦めしたい。

※表紙画像は紀伊國屋書店BookWebから提供されています。クリックすると紀伊國屋書店BookWebページが開きます

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