建築学科で「都市計画」を教授してる私が、都市計画の専門書を紹介するのは、ややはばかられるが、本書はあえて皆さんにご案内したい。本書はこれまでの都市計画の専門書とは大きく異なるコンセプトで編集されている。チェコで発刊された本書はドイツ語、中国語など5か国語に翻訳され、ドイツのDAM建築図書賞(2022年)、イタリアのボローニャ国際児童図書賞(2021年)を受賞し、専門書としても絵本としても評価されている。
「初心者」をどのレベルにおくかは難しいが、「こども向け」であることは確かである(しかし、漢字のレベルは少し難しく、これは日本語に固有の問題かもしれない)。難しい解説はできる限り短く、象徴的なイラストや模型を大胆に配置し、14の都市問題に対して文字サイズを変えるなど、視覚に訴える表現で理解を促している。また、核心をついた都市問題が述べられているが、その解決策は書かれていない。つまり、読者が自分のレベルに応じて「課題を見つけ、その時点で自身が持っている知識を使って、いま考えられる適切な答えを出す」という作業がやりやすいように書かれている。一方、従来からの日本の教科書では押しなべて都市問題・課題を挙げ、それをどのように事業・規制・計画を用いて解決したのかが書かれているため、この点でも既存の図書とは大きく異なっている。
取り上げられている14の都市問題の中には「都市の用途別ゾーニング」「郊外化」「公共空間の放置」「都市の私有化」「空き家、老朽化する住宅ストックと不動産投機」など、わが国が抱えている都市問題と共通する点も多く、学ぶべき点もある。ただし前述のように解決策は書かれていないので、自分でどうすべきかを考えなくてはならないため、都市計画の知識がなければ解決の方向性が導き出せないかもしれない。逆に、「都市計画」は万国共通ではないため、都市問題が発生している場所や国に応じたいくつもの解決方策を思いつくかもしれない。ともかく都市を対象に「考える」ための図書として目を通してもらいたい。
都市計画の学修にあたり、分かりやすく、易しく学びたいという学生にはお勧めですし、専門分野が異なる学生にとっても都市や都市問題を教養として学びたいという場合にはお勧めの1冊です。
図書館ではこの図書を所蔵
(駿:518.8||O43 船:518.8||Mi )
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