おすすめの本

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☆おすすめの本☆「木」から辿る人類史:ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る
 ローランド・エノス著, 水谷淳翻訳 // 森と木と建築の日本史 (岩波新書1926)
 海野聡著/推薦者:宇於﨑勝也(建築学科)

「カーボンニュートラル」という言葉をよく耳にします。簡単に説明すると「温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること」です。なお、「均衡させる」とは「温室効果ガスの排出を全体としてゼロ」にすることです。ではどのように「ゼロ」にするのでしょうか。
「排出を全体としてゼロ」とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林や森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味し、そのためには、温室効果ガスの排出量の削減と吸収量の保全及び強化が必要です。
日本国政府は2050年にカーボンニュートラルを実現するため、2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指しており、その達成のためにエネルギー消費の約3割、木材需要の約4割を占める建築物分野において取り組みの強化が急務とされています。
そのため「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(2015年制定)」が、2022年4月再び改正され、建築物の省エネ性能の一層の向上を図る対策の強化や、建築物分野における木材利用のさらなる促進のための規制の合理化などが図られることになりました。
二酸化炭素の吸収・固定化にあたっては植林などによる森の育成と、育って使えるようになった「木」を「木材」としての活用を促進することが重要なカギとなります。では「木」をヒトはどのように利活用してきたのでしょうか。そこで「木」をより理解するための2冊の書籍を紹介します。
「『木』から辿る人類史:ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る」では、全世界的な視野で「木」がいかに人類の身近で、大切で、便利なものであるかが解き明かされます。著者は生体力学という動植物の工学的仕組みの研究が専門ですが、その枠を超えて森林管理や建築(木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造など)まで幅広く詳しい知識を披露してくれます。本書は4部構成となっており年代ごとに木と人の係わりを述べています。第1部は数百万年前から1万年前までで、人類の進化の中で木を道具としてどのように使ってきたかが紹介され、ここでは生体力学という分野の研究成果が大いに披露されています。第2部は1万年前から西暦1600年までで、森を拓いて船を造り、建築を作ってきた歴史の中で、木がどのように関わってきたのか。特に組積造と呼ばれる石造やレンガ造の建築物が実は木で支えられていることが明らかにされています。第3部は西暦1600年から現代で、薪や木炭といった木に代わって石炭がエネルギーとして利用され、産業革命が起こり、その後の発展が描かれています。第4部は「木の重要性と向き合う」と題され、今日の課題として、気候変動が森林破壊の影響であることや、緑化や植林による再自然化について触れられ、今後、われわれが考えていかなければならない木や森との付き合い方を気付かせてくれます。本書の中で紹介したい部分は数多くありますが、本文の冒頭に関連する箇所のみを転記させていただきます。「第一に、これらの木材製品はいずれもカーボンニュートラルではない。たとえば、木材の伐採・輸送・機械加工にはエネルギーが必要だ。現代の木材製造工程の中で最もエネルギーを消費するのが炉乾燥である。切り倒したばかりの木には大量の水分が含まれており、その水分を蒸発させるには1ポンド(約450グラム)あたりおよそ1メガジュール(約240キロカロリー)のエネルギーが必要だ。そのため炉乾燥によってどんな木製品にも、乾燥木材1ポンドあたりおよそ4.5メガジュールの内包エネルギーが追加されることになる。再生可能エネルギーを使うか、廃材を燃やして燃料にしないかぎり、このエネルギーはすべて温室効果ガスの排出につながってしまう」。とあり、単に木材を使えばいいという短絡的な話ではないことがわかります。木との付き合い方を改めて考えさせてくれる1冊です。

「木」から辿る人類史―ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る

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「森と木と建築の日本史」は、1000年を超える木造建築が多数現存する、世界的にも珍しい国である日本において、日本建築史が専門の筆者が樹種にまでこだわって伝統的建造物を解説し、時代が下るにしたがっ森林資源が枯渇したことによる対処の様子などが紹介されています。
本書は5章構成となっており、時代ごとに日本人が「木」をどのように利活用してきたかが述べられています。第1章は「木と人のいとなみ」で森林と人の関係、木の特性を利用した活用などが述べられています。「建築材料」で学修する「木」の性質など、「木」に関する基本的な事項のおさらいができます。第2章は古代です。われわれは漠然と木造建築やそこに収められた仏像を眺めていますが、本書では特に樹種にこだわって分析が進められています。木造建築では箇所に応じて使用されている「木」が異なっていることが明らかにされます。奈良時代以降、ヒノキが建材として好まれて使用されてきましたが、組物にはケヤキが使われてきたことや、掘立柱にはコウヤマキが選ばれたことなどが指摘されています。さらに、ヒノキやコウヤマキは日本と台湾のみに分布し、それ以外の国には自生していないことも改めて認識させられます。また、仏像も唐から渡ってきた法隆寺の九面観音像はビャクダンで造られており、ビャクダンは南方系の香木で日本には自生せず、さらに芳香性が強く香料としても使用されていることなどが紹介されます。さらに、当時は豊富な森林資源を利用して寺社がたくさん作られた様子が語られます。第3章の中世では、多くの建造物が作られた結果、大規模建造物に必要な巨木(巨材)が徐々に枯渇し始め、どのように対応したのかが明らかになります。また、ダイガンナや縦挽きノコが発明され、それ以前に比べて格段に精度の良くなった木材(柱や板)が利用できるようになったのもこの頃とのことです。さらに、木材が輸出入されていた証拠も示されます。第4章の近世では多くの木造建造物の造営、復興、再建、補修が行われる中、巨木を求めて全国各地に林産地が拓かれ、さらに権力者による森林資源の確保が行われていった様子が示されます。また、江戸では明暦の大火を始めとするたびたびの大火災で木材の需要が一層高まり、東廻り航路・西廻り航路などの新たな流通経路が開拓される様子も描かれます。そのような中、巨木が山中で発見されても運搬に非常に苦労があったことが明らかになっています。終章は近代から現代です。東本願寺や姫路城大天守など具体的な建造物の補修を取りあげて、巨木の確保の困難さ、運搬の苦労、江戸時代の工法の意味が改めて発見されたことなどが記されています。最後に「21世紀型循環モデル」が提案され、持続可能な木の文化サイクルを形成するため、長時間を要する木の育成から最後は燃料として用いられるまで、何段階もの利活用が提案されています。わが国の木造建造物がどのようにつながれてきたのか深く理解できる1冊です。

岩波新書<br> 森と木と建築の日本史

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駿:542.21 ||u76   船:080 || I95 ||1926

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以上のように「森」や「木」について新たな認識ができるお勧めの2冊です。

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