コロナ禍の影響であろうか.便利さを謳歌しつつも,どこか心に穴が空いたようにも感じられる.テレワークという造語も生まれ,今やパソコンやスマートフォンの無い生活は考えられない.SNSを通じて多くのヒトに出会い,共感もする.何よりも便利である.頭ではわかっている.だけれども何か渇きを感じる.色彩を失った世界とでも言えようか.ある種の息苦しさを感じる.
人類が善き未来をつくる「希望の歴史」というタイトルに惹かれ本書を手に取った.著者はヒトの本質は善であると説く.そもそもヒトの本質に善や悪があるのかと思いつつ,思いのほか,性善,性悪説の歴史は古い.それだけヒトの心の機微が複雑だということか.
ヒトは地球全体を征服する.なぜヒトはこれほどの種となったのか.ダーウィンの「自然淘汰説」やドーキンスの「利己的な遺伝子」が言う自然選択なのであろうか.著者はそれとは対峙する考えを示す.約5万年前,ネアンデルタール人がユーラシア大陸を覆う.彼らはヒトの原型とも言える存在だ.大脳を発達させ,その容積はヒトよりも大きい.ヒト以上に空間認知なども長けていたと考えられる.しかし,高度な文明を築き,継承することはなかった.著者は彼らとヒトの頭蓋骨形状の違いを指摘する.眉の部分の形状だ.彼らに代表される類人猿は眉部が隆起しているがヒトは平坦である.つまり,眉の可動域に差異が生じる.彼らの眉の動きは乏しく,ヒトの眉は感情豊かに可動する.目は口ほどに物を言うとあるが眉は繊細な心の機微を表す.ヒトは感情表現を獲得し,他者と共感,信頼を築くことができたと結論付ける.著者の結言が爽快だ.自分の本性に忠実になり,他者を信頼しよう.ヒトの善なる本質を無視して,他者との信頼関係を築くことは難しい.
コロナ禍の影響,それは社会生活を脅かす経済的,直接的な影響だけで無く,我々の心の奥底にも少なからず間接的に影響しているようである.まさに社会,ヒトの在り方が試されているようでもある.ヒトの原点に立ち返り,他者との信頼性についても考え,問いかけてみても良いのではないだろうか.
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(駿:114 || B72 ||1 船:114 || H || 1 )
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