おすすめの本

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☆おすすめの本☆ 東京、はじまる  門井慶喜 著  
推薦者:宇於﨑勝也(建築学科)

「辰野金吾」といえば、工部大学校造家学科第一回主席卒業、英国留学、帰国後造家学科教授、日本銀行本店や東京駅の設計者として、建築を学ぶ者なら知らぬ人はいない、日本の第一世代の建築家である。本書はその幼少期からスペイン風邪で亡くなるまでの一代記である。小説なのである程度のフィクションも含まれているとは思うが、登場人物や関わったプロジェクトに架空のものはなく、ストーリーはもっともらしく思える。

もっともらしいがために、私の中の辰野金吾像は大きく変わった。日本建築学会を設立し、その会長を永く勤め、帝国大学工科大学学長となり、民間建築設計事務所の草分けとなってビックプロジェクトに携わった辰野は堂々とした自信家だったのだろうと想像していたが(写真でも立派なヒゲをたくわえている)、本書の中で辰野はみみっちく、自信不足な面が多々ある。

辰野は江戸時代末期に唐津藩の下級役人の家に生まれ、叔父の家の養子となり、上京して工部大学校に最下位で合格する。曽禰達蔵は唐津藩の上級武士の子で、江戸時代が続けば辰野とは身分が大きく違うが、辰野と一緒に工部大学校に入学し、卒業時の成績は辰野の次だった。そして辰野が亡くなるまでずっと親しく付き合っている。本書には東京駅の設計を曽禰が辰野に譲るやり取りも出てくるし、2人の師ジョサイア・コンドルから日本銀行本店の設計を辰野が奪い取る様子も描かれている。建築史の授業でもこんな裏話は教わらなかった。

今日の東京が江戸のまちなみからどのような発展を遂げたのか、現在の建築界のルールがどのように作られてきたのか、辰野の生涯を通して再認識できる。建築に関わる学生にも、歴史好きな学生にもおすすめの1冊です。

東京、はじまる

図書館ではこの単行書を所蔵
駿:913.6||ka 14  船:913.6||ka 14 

※表紙画像は紀伊國屋書店BookWebから提供されています。
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