おすすめの本

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☆おすすめの本☆ まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか 
 木下 斉 著 / 推薦者:宇於﨑勝也(建築学科)

著者の木下さんに会ったのはもう15年ぐらい前になる。学会の講演会でパネリストを依頼して話を伺い、20歳も年下の青年の実行力に驚き、その実践が地域再生のよい手本になると、卒業研究に取り組む学生たち多くに木下さんが関わった事例を紹介してきた。私も木下さんの著書や論考が出るたびに情報収集のためによく読ませていただいた。
本書は木下さんの想いを込めた1冊で、これまでの事例や実践の紹介とは別の意味で、大変勉強にもなり、共感もできた。本学には土木建築系が5学科あり、そのいずれにおいても「まちづくり」に興味を持つ学生は多いと思うし、土木建築系以外の9学科の学生でも地域においてボランティアや町会活動などを通じて「まちづくり」に関わっているかもしれない。「まちづくり」という言葉が少しでも気になる学生(教職員も含めて)にとって、本書は必ず目を通すべきものといえる。
コロナウイルス感染症の蔓延でテレワークが急速に発展し、在宅勤務でよいならば、何も家賃の高い都市部に住まなくてもよい。地方への移住が進む。ワーケンションで仕事と遊びの両立を。といったことがこの1年でよく聞かれた。東京一極集中から地方都市に人口が分散するかのような錯覚をしても仕方がないような偏った情報であったと思う。しかし、コロナ禍にあった昨年の国勢調査(2020年10月1日現在)の速報集計結果によると、日本の人口は5年前に比べ0.7%減少したものの、東京都は人口増加率が最も高く4.1%増となっている(令和3年6月25日総務省発表)。コロナウイルス感染症が引き金となって、「地方の時代が到来する」とはウソではなくとも針小棒大、誤解を生む表現であったといえる。本書では第1章の「『コロナ禍で訪れる地方の時代』という幻想」で同様な指摘がなされている。また、地域の再生には「よそ者、若者、バカ者」がキーパーソンになるという伝説は、私が学生時代に読んだ本にも書かれていたと思うが、本書では第3章の「『地域の人間関係』という泥沼」でそれを否定し、いずれの者でも当事者意識を持って臨まなければ地域再生は成し遂げられない事実を示している。
第5章の「まちづくり幻想を振り払え!」では具体的なアクションを示しながら、どうすればよいのかの示唆が得られる。補助金に頼ったり、過去の慣習を変えられなかったり、経済を回すことを考えなかったりでは、地域再生はかなわないという事実がよく理解できる。
まちづくりに関心のある学生には卒論・修論の着手にあたって、目を通しておくべきと言いたい。また、もし「第2の人生を地方で」と考えている方がいれば、自分がやらなければ何も変わらないことを自覚するために、ぜひ読んでいただきたい。現在、常識と思い込んでいるさまざまな幻想を払拭するために、お勧めの1冊です。

SB新書<br> まちづくり幻想―地域再生はなぜこれほど失敗するのか

図書館ではこの単行書を所蔵
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※表紙画像は紀伊國屋書店BookWebから提供されています。
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