各時代で必要とされた暗号の歴史が興味深いエピソードとともに書かれている。第1次世界大戦で通信が無線になると、暗号は必要不可欠となった。無線は電線を引かずにどこでも通信できるが、敵にも傍受されるからである。機械による暗号作成が発展する一方、国や民族の存亡をかけ、解読機械を必死に開発するという手に汗握る攻防は一気に読ませられてしまう。これらは現代の計算機開発につながり、今や誰もがインターネット上で暗号を使う時代となった。本書は暗号技術の未来にも言及している。誰もが暗号を使うには、不可能と思われていた鍵配送問題を解決する必要があったが、それは素因数分解困難性による公開鍵暗号で達成された。しかし、もし、短時間での素因数分解を可能とし、公開鍵暗号を無力化してしまうという究極の解読機械、量子コンピューターが開発されると、それは大変な社会的脅威となる。各国の軍、機密情報、金融などの機関の関係者は怖れとともにその開発状況を注視しているのだ。紹介者も、同じ研究室だった知り合いがベンチャー企業を立ち上げ、ある種の量子コンピューターを生産化しているので、この分野から目が離せない一人である。
図書館では単行書を所蔵 (駿:809.7||Si 8,船:809.7||A)