戦後の復興期から数十年に渡り,日本におけるフランス料理を始めとする西洋料理の世界を牽引し続けた料理人,村上信夫さんの自伝です.
私自身,料理をすることが大好きなので,テレビなどのメディアに多数登場していた村上さんの人生がどんなものだったのか,いかに当時の日本における西洋料理の舞台の最高峰であった帝国ホテルの総料理長になるまでの技能を身につけたのかを知りたくて,この本を手に取りました.
正直,この本を読むまでは,戦後の貧しい時代から華やかな西洋料理の世界で活躍するような人ですから,村上さんは良家の生まれで英才教育を受けて育ったのだろうと思っていました.
ところが,全く違いました.幼くして両親を亡くし身寄りが無くなり,尋常小学校を卒業すること無く読み書きや算数も満足にできなぬまま,小さな洋食屋に住み込みで働く小僧として料理人のキャリアをスタートしていたのです.
この本には,村上少年が料理人としていかに成長していったのかというエピソードが詰まっているのですが,様々な機会や人に恵まれご本人も「本当に運が良かった」と振り返っています.ただし,運が勝手に転がり込んで来たわけではありません.
では,何が村上さんを大料理人たらしめたのでしょうか.答えはシンプル,「一生をかけて勉強し続けたから」.
村上さんの座右の銘は「果報は寝て待て」をもじった「チャンスは練って待て」.というものです.誰にも人生を変えうるチャンスが一度はやってくる.それを確実につかめるように準備,つまり勉強しておきなさいということです.
どんな境遇にあっても,腐らず前向きに明るい気持ちで勉強することの大切さを教えてくれるこの一冊,手にとってもらえれば幸いです.