図書館だより

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第34回日本大学理工学部図書館公開講座の講演概要

平成30年12月10日(月)18時より1号館6階CSTホールにおいて,第34回日本大学理工学部図書館公開講座が開催された。今回は日本大学理工学部交通システム工学科教授の小早川悟先生による「身近な道路の交通安全対策」を演題に,105名の聴衆に対して質疑応答を含め約2時間の講演がなされた。

○小早川悟先生講演概要
私が所属する交通システム工学科は,今から約50年前に設立された交通工学のパイオニア学科です。本日は「交通」を巡ってのお話しをさせていただきます。まず,交通事故件数の推移を見ていただきます。昭和45(1970)年ごろに交通事故件数,死者数が増え,モータリゼーションによる第1次交通戦争と呼ばれる状況が起こります。交通事故の主な原因は道路のインフラが整っていなかったためです。さまざまな対策の結果,事故件数と死者数は一度は減少しましたが,平成に入ってからは再度増加に転じました。その後,平成5(1993)年頃から死者数が減少,平成15(2003)年からは事故件数,死者数が大きく減少しています。平成28(2016)年には死者数が4,000人を下回り,さらに減少傾向にあります。しかし,この数値は警察統計であり,事故発生から24時間以内の死者数です。国際統計では事故発生後30日以内を使用しますので,実際の交通事故による死者はもう少し多くの方が亡くなられています。日本全体での交通事故対策としては,内閣府で5年ごとに見直されている交通安全基本計画があります。第10次の交通安全基本計画は,平成28年に策定され「交通事故のない社会を目指して」という目標,「人優先の交通安全思想」,「先端技術の積極的活用」という方針が示され,自動運転や情報通信などの技術を積極的に活用して事故を減らす方向性が示されています。ここでは平成32(2020)年までに死者数を2,500人以下とする目標値が掲げられていますが,第9次計画の目標値は3,000人以下でした。これらの目標値を達成するために重点的に対応すべき対象として「高齢者」「自転車」「生活道路」の3者の安全確保が挙げられています。
それでは重点的に対応すべき対象についてひとつずつ見ていきます。まず,高齢者の交通事故に関しては,それほど増えてはいません。高齢者以外の死者数の減少傾向に対して高齢者の死者数が減っていないために,相対的に高齢者の死者数が多く感じられますが,実際には横ばい傾向です。なぜかというと,高齢者数が爆発的に増加しているからで,今後も高齢者の割合は増え続けますから,高齢者の交通事故死者数が急に減少するとは考えられません。また,75歳以上の運転免許の保有者数も年々増加しています。これは先に述べた,わが国でモータリゼーションが発展したころに免許を取得した人たちの保有者数自体が多く,過去にない状況となっており対応が難しくなっています。死者数を人口10万人あたりに換算すると,全年齢層で減少傾向,高齢者で横ばいです。高齢者の総数が増えていますから減り方は微弱です。
交通事故分析センターによる高齢者の道路横断事故について見ると,高齢者の死亡時事故が集中するのは17時から19時の薄暮のころです。どのような横断の場面に事故にあうのか,相互通行の道路で,手前の車線をわたり,その先の車線で事故にあうケースが多いのです。原因ははっきりしていません。交差点でも2つ目の車線で事故にあいます。ドライバーからすると交差点を渡り切った先で事故になるパターンが多くなっています。このような事故の対策として「二段階横断施設」が考えられますが,狭い幅員の道路では厳しく,日本ではどこまで普及するかは不明です。
次に自転車ですが,昨年「自転車活用推進法」が策定されました。幅広い内容を網羅していますが,基本方針が14項目あります。国際的に通用する自転車競技施設の整備,良質な自転車の販売,自転車を電車に載せて移動する,災害時の自転車の活用など,さまざまなことをやりましょうと法律でうたっています。自転車専用道路やシェア・サイクルも含まれています。自転車道の例ですが,車道とガードパイプなどで分離した自転車道が確保されたものが挙げられます。これは評価する方とそうでない方がいて,安全に交通できるという意見と狭い自転車道で交互交通をするのが怖いとする意見があります。通行帯(専用レーン)と呼ばれるものは,車道の脇にあって自動車と同じ方向のみの走行するものです。路面が青く塗られていることが多いです。最近増えているのは青い矢印で,矢羽根と呼んだりしますが,道路交通法の規制はなく,あくまでも誘導であって,自動車と自転車が混在して使うので注意が必要といった意味合いです。至る所で増えているように思いますが,本来は道路形状と交通量,速度によってガイドラインでルールが決められています。
また,最近増えているものにシェア・サイクルがあります。わが国ではコミュニティ・サイクルと言ったりしますが,これは和製英語です。世界の各都市で見られ,千代田区でも私も協力した「ちよくる」が導入され,現在では他区とも連携して都心部の交通のひとつとなっています。利用者数・登録者数ともに増えていますが,卒業研究で利用者数を増やすためにどうすればよいかを検討した結果,広範囲で実施することが必要で,都心部では徐々にシステムの範囲が広がって利用者数は増えています。若干懸念されるのは,外国人観光客が利用するようになった際に,日本の交通ルールが複雑で,標識も日本語が多いために,気を付けないと危ないのではないかと思います。
さて,生活道路に関しては,まず「ゾーン30」の導入があります。区域を定めて時速30kmの速度規制をするもので区域への入り口となる場所の標識や路面の表示が行われています。外周道路はそれなりの速度制限ですが,住宅街や生活道路では速度を落とす方策のひとつです。卒業研究で外周道路(40km制限)と生活道路(30km制限)の走行速度の変化を調査しました。そもそも外周道路でもかなりのスピードオーバーの自動車が多く,生活道路に入っても30kmに十分に減速できていない自動車が77%あることがわかりました。そのため,物理的に速度を落とさせる仕掛けが必要であると考えられ,道路上に凹凸をつけたハンプを導入したり,着色によるイメージハンプの導入などが行われています。また,横断歩道の盛り上げ(ハンプ構造)によるスムース横断歩道,道路を狭める狭さくなどが試されています。
私どもの大学で行っている未来博士工房には「交通まちづくり工房」があります。学生たちが交通安全対策を実際に行い,学生が主体的に考えて,教科科目と地域社会を結ぶ試みを行っています。平成28(2016)年4月,大学の近くの習志野台8丁目に大きなショッピングセンターができました。交通事故が増えるのではないかという町会の方々の懸念を受けるかたちで,「交通まちづくり工房」がまち歩き点検から始めて問題点の洗い出しを行いました。住民,行政,警察,大学の4者連携のもとで,交通量調査等を工房の学生が実施し,結果を住民や行政に公開して対策を検討しました。学生たちの調査の結果,ショッピングセンターを利用する自動車の入店時は前面の国道を使用することが多いものの,退店時は生活道路内に広がっていることがわかりました。さらに,ショッピングセンターとは関係なく,生活道路を抜け道にしている自動車が多いことが明らかとなり,幹線道路の渋滞を避けて生活道路に入り込む通過交通がかなり大きな問題であることがわかりました。このような情報は地元に還元しています。また,ここにはゾーン30を適用しましたので,学生が引き続き調査を行っていますが,導入前後の自動車の速度の計測では,生活道路内でもほとんど速度が落ちていないことも明らかとなっています。何らかの物理的な仕組みを取り入れて速度を落とさせることを検討しています。行政にも路面のカラーリングや交差点のイメージハンプなどを実施していただきましたが,ドライバーも慣れてくると速度を落とさなくなることが懸念されます。物理的仕組みとしてゾーン30の入り口道路を狭くしましたが,自分の家の前がいざ狭くなってみると不便であるといった意見が出る可能性もあります。そのようなときにも調査結果のデータを用いることで,なるべく理解を得る努力をすることになります。習志野台8丁目では町会が自主的に独自のアンケート調査の実施,ヒヤリハットマップの作成,ゾーン30キャンペーンなどを行い,工房の学生たちは交通量調査,速度調査を,警察は事故情報の開示,行政は路面のゾーン30の導入,路面のカラーリングなどの工夫で協力し合い,生活道路の安全対策を進めています。
最後に配布させていただいた交通ブリテンという冊子の紹介です。交通システム工学科の教員が取り組んでいる交通安全対策関連の研究を掲載した号をお配りしました。学科のホームページからダウンロード可能ですので,是非ご覧になってください。
本日はありがとうございました。

講演後6名から講演内容以外についても質問が寄せられ,小早川先生は丁寧に答えられた。質問は尽きない様子であったが19時50分に終了し,小早川先生には盛大な拍手がおくられた。

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